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  • 2018.06.15
  • つぶやき
  • 一瞬にして乱世に 青森県・義経寺

2018年6月8日版掲載

私が初めて小説らしきものを手にしたのは、小学4年生の時の「源義経」だった。その頃、村の小学校には図書館もなく、教科書以外で目にする本らしきものはなかった。父が、町から赴任してきた先生にお願いして、町の本屋で買ってきてもらったものだった。

本の中身は正確には覚えていないが、源義経を中心に、源平の戦い、兄の頼朝との信頼と憎しみ、弁慶との出会いが描かれていた。

私の住む五箇山も平家の落人伝説が語り継がれている土地で、源氏とも無縁ではない。小説の主立った舞台、香川・屋島や山口・壇ノ浦、京都・五条大橋、石川・安宅の関跡、奥州・平泉などへはその後、私も足を運んでいる。

本州の日本海側最北端、私の好きな津軽半島・竜飛岬にあるホテルのフロントで「源義経の北行伝説が伝わる義経寺(ぎけいじ)があるから、じかんがあれば」と勧められた。ホテルからは国道339号を南へ約10㌔。東津軽郡外ヶ浜町の三厩漁港(みんまやぎょこう)のすぐそばの高台にあるとのことだった。

夕方だとすれ違う車も少ない。三厩漁港は結構大きな港で、海にせり出すように小高い丘がおる。山肌を取り巻くように、階段が連なっている。ゆっくり登ると、目の前に山門が現れて、「義経寺」の文字が読める。山門から右手に津軽海峡が見えてくる。演歌の世界だ。

山門をくぐれば本堂の灯が目を引きつける。伝説の地と分かっているので、時間が一瞬にして乱世の時代に戻る。言葉では表現できないほど、人々の汗と涙で歴史をつないできたに違いない。旅は多くのものを見せてくれる。