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  • 2020.06.22
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  • 足ブラブラ 幸せ  兵庫県・湯村温泉

2020年5月8日版掲載

日本列島は温泉天国。日本各地に名の知られた温泉地がある。もともと温泉は、湯治場として土地の人々が仕事の合間に体の痛みや疲れを癒すために利用したのが始まりだと思う。御湯が湧き出たらそこを掘って湯につかる。海辺に、河原に、山の中にと、火山の国、日本の地下には、どこでも湯が出る道があるのだろう。

特に東北地方には湯治場の雰囲気を持った温泉地が多い。写真家、濱谷浩(1915~99)は、科学写真界のノーベル賞と言われるハッセルブラッド国際写真賞を日本人で初めて受賞した我が国を代表するカメラマン。戦後の日本海側の地に足を運び、日本の風土、風俗を数多く写真に収めている。

その代表作「裏日本」(新潮社、57年)の中に、1枚の入浴写真がある。「山の湯治場『谷地温泉』青森1957」と題された写真は、畳5~6枚ほどの湯船の中で、約30人もの老若男女が幸せそうにお湯につかっている。混み具合は東京の山手線のラッシュ時のようにぎっしりで、隣の人の体が嫌でも触れる。それでもみんな笑顔だ。日本も半世紀前までは、こんなに自由でおおらかで安心で平和な時代だったのだと、1枚の写真が伝えてくれる。

1982年、NHKでテレビ放送されたドラマ「夢千代日記」(全5話)では、ひなびた温泉町で、芸者の置き屋を営む女主人公と彼女を取り巻く人々を描いた名作だ。それぞれが暗い過去を背負っており、決して明るい物語ではない。脚本・早坂暁、演出・深町幸男、音楽・武満徹、そしてヒロインは吉永小百合とすべてが素晴らしく、今でも記憶に残っている。

ドラマの舞台となった兵庫県新温泉町の湯村温泉は、山あいの賑わいのある明るい温泉町だ。写真は町の中央にある足湯。今はどこの温泉地でも見ることができる風景だ。足ブラブラで幸せである。